ICLで矯正できる乱視の範囲は、ひとつの数字で言い切れるものではありません。学会が案内している条件、メーカーが公表しているレンズの規格、医療機器として承認された内容、各クリニックが実際に案内している条件は、それぞれ別のものだからです。この記事ではこの4つを分けて整理し、公開情報で確認できる数値と、適応検査で見られる項目を解説します。
乱視用ICLの適応は「何度まで」を4つの基準に分けて考える
ICLの適応について語られる情報には、出どころの異なるものが混在しています。同じ「◯D まで」という表現でも、誰が何について述べたものかによって意味が変わります。
| 基準 | 誰が示すもの | 何について述べているか |
|---|---|---|
| 学会の目安 | 専門学会 | 一般向けに案内している、ICLを受けられる条件 |
| レンズの規格 | メーカー | 製品として用意されている度数の範囲 |
| 承認された内容 | 国(添付文書) | 医療機器として承認された使用目的・禁忌 |
| 各院の運用 | クリニック | その医療機関が実際に案内している条件 |
以下、順に見ていきます。
基準1|学会が案内しているICLを受けられる条件
日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)は「ICLを受けられる条件」として、乱視について「乱視は4.5D以内であること」と示しています(2026年8月8日確認)。
同じ条件の中で、近視については次のように案内されています。
- 近視の強さを表す屈折値が6D以上の高度近視であること
- ただし15Dを超える最強度の近視や、3D以上6D未満の中等度の近視に対しては慎重に実施する
また年齢について「18歳以上(未成年者の場合、親権者の同意が必要となります)」、「老眼年齢(一般に40歳以上)に関しては、術後の近くの見え方も考慮して慎重に実施する」とされ、度数の安定について「近視の度数が少なくとも1年(できれば1年半)以上安定していること」が挙げられています。
基準2|レンズが構造として持っている性能
先に押さえておきたいのが、ICLには複数の製品があり、承認番号も添付文書も別だという点です。当サイトが確認できた範囲では、少なくとも次の2つがあります。
| 販売名 | 承認番号 | 乱視用モデル | 特徴 |
|---|---|---|---|
| KSアクアポート | 22600BZX00085000 | VTICMO / VTICM5 | 光学部中央に孔がある(ホールICL) |
| アイシーエル | 22200BZY00001000 | TICM | 孔のない世代 |
JSCRSは「中心部に孔がある現在主流のホールICL」と述べており、現在の主流は前者のKSアクアポートです。数値を見るときは、どの製品についての話なのかを意識する必要があります。
現在主流のホールICLの構造
販売名「KSアクアポート」の添付文書(2025年5月 第11版、2026年8月8日確認)は、レンズの構造について次のように記載しています。
本品のモデルには、円柱屈折が0.0Dの近視用モデルVICMO・VICM5と、+1.0D~+4.5Dの円柱屈折力を有し乱視補正機能を備える近視性乱視用モデルVTICMO・VTICM5がある。いずれのレンズも光学部中央に貫通した孔を有する。
モデルごとの範囲は次のとおりです(いずれも0.5D刻み)。
| モデル | 球面度数 | 円柱度数(乱視) |
|---|---|---|
| VICMO(乱視矯正なし) | −3.0 〜 −18.0D | ― |
| VTICMO(乱視用) | −3.0 〜 −18.0D | +1.0 〜 +4.5D |
| VICM5(乱視矯正なし) | −3.0 〜 −14.0D | ― |
| VTICM5(乱視用) | −3.0 〜 −14.0D | +1.0 〜 +4.5D |
乱視用レンズ製品によって構造上の範囲は異なる
孔のない世代の「アイシーエル」(承認番号22200BZY00001000、2025年3月 第10版)では、乱視用モデルTICMの円柱屈折力が+1.0D〜+6.0Dと記載されています。同じICLでも、製品によって構造上の範囲が違うということです。
ネット上で見かける「ICLの乱視は◯Dまで」という数字が食い違うのは、こうした事情もあります。
下限が+1.0Dである点は共通している
見落とされがちですが、乱視用レンズの円柱度数には下限(+1.0D)があり、これは両方の製品で共通しています。乱視が非常に軽い場合、そもそも乱視用レンズの範囲に入らない可能性があるということです。
「乱視があるなら必ず乱視用レンズを選ぶ」という単純な話ではなく、乱視の程度によっては通常のレンズが選択されることもあります。実際にどちらを使うかは検査結果をもとに医師が判断します。
基準3|医療機器として承認された内容
医療機器には、添付文書に「使用目的又は効果」として承認された内容が記載されています。現在主流のホールICL、販売名「KSアクアポート」の添付文書(2025年5月 第11版、2026年8月8日確認)には次のように記載されています。
| モデル | 承認された使用目的 |
|---|---|
| VICMO・VICM5(近視用) | 屈折異常眼(近視)の視力補正。ただし21歳〜45歳で、術前等価球面度数が−6.0D以上の強度近視、かつ円柱度数が+2.5D以下の患者 |
| VTICMO・VTICM5(近視性乱視用) | 屈折異常眼(近視性乱視)の視力補正。ただし21歳〜45歳で、術前等価球面度数が−6.0D以上の強度近視、かつ円柱度数が+1.0D〜+4.0Dの患者 |
孔のない世代の「アイシーエル」でも、使用目的の記載は同じ数値(21歳〜45歳、−6.0D以上、乱視用は+1.0D〜+4.0D)です。
もうひとつ見落としやすいのが、近視用モデルにも乱視の条件がある点です。乱視用でないモデルの使用目的は「円柱度数が+2.5D以下の患者」とされています。乱視が+2.5D以下であれば、乱視用でないレンズも承認された使い方の範囲に入るということです。
構造上の性能と、承認された使用目的は一致しない
ここが、この記事でもっともお伝えしたい点です。同じ添付文書の中で、
- レンズの構造としては円柱屈折力 +1.0D〜+4.5D
- 承認された使用目的としては円柱度数 +1.0D〜+4.0D
と、異なる数字が併記されています。「レンズが対応できる範囲」と「承認された使い方の範囲」は別のものだということが、同じ文書の中で確認できます。孔のない世代の製品では、この差はさらに大きく(構造+6.0D/使用目的+4.0D)なっています。
メーカーの製品情報ページに掲載されている「+1.0D〜+4.5D」という数字は、構造上の範囲にあたります。承認された使用目的の範囲とは異なる点にご注意ください。
年齢の記載も学会の案内とは異なる
年齢についても違いがあります。JSCRSは「18歳以上」と案内していますが、この添付文書では使用目的が「21歳〜45歳」とされ、さらに禁忌として「21歳未満」が挙げられています。
どちらかが誤っているという話ではなく、学会が臨床的な観点から案内している目安と、医療機器として承認された範囲は別のものだということです。
乱視に関わる禁忌
同じ添付文書の【禁忌・禁止】には27項目が挙げられており、そのなかには乱視に直接関わるものがあります。
- 不正乱視の疑い、もしくは既往
- 円錐角膜(軽度かつ非進行性を除く)〔屈折矯正手術ガイドラインによる〕
- 前房深度が2.8mm未満
- 術前1年以内の屈折変化が0.50Dを超える患者
- 他の屈折矯正手術及び/又は内眼手術歴のある患者
乱視の度数が範囲内であっても、その乱視が不正乱視であれば扱いがまったく異なります。度数の大小よりも、乱視の種類のほうが判断を分ける場合があるということです。
円錐角膜の扱いは製品によって異なる
ここも製品による違いがあります。孔のない世代の「アイシーエル」では禁忌が単に「円錐角膜」とされているのに対し、現在主流の「KSアクアポート」では「円錐角膜(軽度かつ非進行性を除く)」と、除外の条件が付いています。
さらにKSアクアポートの【使用上の注意】では、慎重に適用すべき患者として「矯正視力が比較的良好で、かつ非進行性の軽度円錐角膜〔屈折矯正手術ガイドラインによる〕」「円錐角膜疑い」が挙げられています。つまり、軽度で進行していない円錐角膜は禁忌から外れ、慎重適用の対象として扱われているという記載です。
ただしこれは添付文書上の分類であり、実際に受けられるかどうかは検査に基づく医師の判断になります。ご自身で当てはめて判断しないでください。
また【使用上の注意】では、等価球面度数が−15.0Dを超える強度近視について「当該度数への適用については安全性が十分に確認されていないため、他の矯正法が適用されない場合のみ、術前の十分な検査と患者への十分な説明の上、慎重に適用すること」とされています。
また、角膜内皮細胞密度についても年齢別の下限値が示されており、21〜25歳で2800、26〜30歳で2650、31〜35歳で2400、36〜45歳で2200(cells/mm²)を下回る患者は慎重適用とされています。乱視の度数とは無関係に、この検査結果で判断が変わることがあります。
基準4|各クリニックが案内している条件
実際に手術を受ける段階では、各医療機関の運用が判断に影響します。当サイトが8院の公式サイトを調査したところ、乱視の度数によって料金区分を分けている院がありました。
たとえば先進会眼科は、乱視用ICLの追加料金を「乱視用ICL」と「強度乱視用ICL」の2区分で公表しています(2026年8月8日確認)。乱視の強さによって扱いが分かれる運用が実在するということです。
料金の詳細はICLの乱視あり費用はいくら?乱視なしとの料金差・相場を比較で解説しています。
乱視用ICLの適応を4つの基準で並べてみる
ここまでの内容を、乱視(円柱度数)と年齢について並べると次のようになります。
| 基準 | 乱視(円柱度数) | 年齢 |
|---|---|---|
| 学会の目安(JSCRS) | 4.5D以内 | 18歳以上(40歳以上は慎重に) |
| レンズの構造(KSアクアポート/乱視用) | +1.0D〜+4.5D | ― |
| 承認された使用目的(KSアクアポート/乱視用) | +1.0D〜+4.0D | 21歳〜45歳 |
| 参考:孔のない世代の構造(アイシーエル/TICM) | +1.0D〜+6.0D | ― |
数字がすべて違います。「ICLで乱視は何度まで」という問いに単一の答えがないのは、このためです。どれかが正しくどれかが誤っているのではなく、それぞれが別のことを述べています。
実務的にもっとも重要なのは、承認された使用目的が「+1.0D〜+4.0D」であることです。学会の目安(4.5D以内)やレンズの構造(+4.5Dまで)と混同されやすい部分なので、説明を受けたときはどの基準の話かを確認してください。
乱視が強い場合に確認されること
乱視の度数が規格の範囲に収まっていても、それだけで適応が決まるわけではありません。JSCRSは、ICLに向いていない条件として次のような項目を挙げています。
- 前房深度(角膜の裏側から水晶体までの距離)が2.8ミリより浅い方
- 進行性の円錐角膜の方
- 白内障、緑内障、ブドウ膜炎などの目の病気を持っている方
- 近視がまだ進んでいる方
- 通常の目薬では治らないような重度のドライアイの方
とくに進行性の円錐角膜が挙げられている点は、乱視を考えるうえで重要です。
乱視という言葉でひとくくりにされていても、その乱視が角膜の形状の変化によるものであれば、度数の範囲とは別の観点で評価が必要になります。
「乱視が強いとICLはできない」と言われる理由
ここまでを整理すると、乱視を理由にICLが難しいとされる場合、少なくとも次のように理由が分かれます。
- 乱視の度数が、用意されているレンズの規格の範囲を超えている
- 乱視の度数は範囲内だが、乱視の原因(角膜の形状など)について別の評価が必要
- 乱視以外の条件(前房深度、他の目の病気、度数の安定性など)が理由
- その医療機関の運用として慎重に判断している
「できない」と言われた場合でも、その理由がどれに当たるのかを確認しておくと、次にどうすればよいかが判断しやすくなります。
適応検査で確認される項目
ご自身の乱視の度数がわかっていても、それだけで適応は判断できません。JSCRSが挙げている条件からも、度数以外に年齢、度数の安定期間、前房深度、角膜の状態、他の目の病気の有無、全身の状態などが確認されることが読み取れます。
また乱視用レンズを使う場合は、乱視の度数だけでなく乱視軸(乱視の方向)の測定が必要です。レンズはこの軸に合わせて作られ、決められた向きで固定されます。この点についてはICLの乱視用レンズはずれる?回転する確率・見え方・対処法で詳しく解説しています。
まとめ
- 「乱視は何度まで」は、学会の目安・レンズの規格・承認内容・各院の運用を分けて考える必要がある
- 学会の目安は4.5D以内、承認された使用目的は+1.0D〜+4.0D、現在主流のレンズの構造上は+1.0D〜+4.5Dと、基準ごとに数字が異なる
- 年齢も、学会は18歳以上、添付文書の使用目的は21歳〜45歳と異なる
- 下限(+1.0D)もあるため、非常に軽い乱視では通常のレンズが選ばれることもある
- 不正乱視や円錐角膜は禁忌に挙げられており、度数より乱視の種類が判断を分けることがある
- 最終的な適応は適応検査で判断される
この記事の数値は公開されている情報を整理したものであり、ご自身が適応になるかどうかを示すものではありません。乱視用ICL全体の仕組みについてはICLは乱視でもできる?眼内コンタクトレンズで乱視を矯正する仕組み・適応を解説をご覧ください。
参照した情報源
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)公開 添付文書「KSアクアポート」承認番号22600BZX00085000、2025年5月 第11版(2026年8月8日確認)
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)公開 添付文書「アイシーエル」承認番号22200BZY00001000、2025年3月 第10版(2026年8月8日確認)
- 日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)「ICLを考えている方へ」(2026年8月8日確認)
- スターサージカル株式会社「製品情報」(2026年8月8日確認)
- 各クリニック公式サイトの料金ページ(2026年8月8日確認)
添付文書は改訂されることがあります。記載内容は上記の版に基づくものです。この記事は医師の監修を受けていません。編集方針/医療情報の取り扱い
