乱視があってもICL(眼内コンタクトレンズ)を受けられる場合があります。一般的には乱視用(トーリック)レンズを使い、近視と乱視をあわせて矯正します。ただし受けられるかどうかは乱視の度数だけで決まるものではなく、乱視の種類や目の状態を含めて適応検査で判断されます。
この記事では、乱視用ICLの仕組み、通常のレンズとの違い、手術前に確認しておきたい点を整理します。
乱視があってもICLは受けられる?
結論からいうと、乱視があることだけを理由にICLの対象から外れるわけではありません。
日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)が一般向けに公開している「ICLを考えている方へ」でも、ICLをすすめる対象として「強度の近視・遠視・乱視や、左右の視力(近視の度数)がかなり違うなどでメガネでは視力の矯正が難しい方」が挙げられています。
乱視用(トーリック)ICLという選択肢がある
ICLには、近視だけを矯正するレンズと、乱視の矯正機能を持つレンズがあります。後者は「乱視矯正ICL」「乱視用ICL」「トーリックICL」などと呼ばれます。乱視がある方は、この乱視用のレンズを使って近視と乱視をまとめて矯正する方法が検討されます。
公益財団法人日本眼科学会は、有水晶体眼内レンズについて「後房(虹彩の後ろと水晶体の間)に埋め込む柔らかい素材のレンズが一般的であり、『眼内コンタクトレンズ』や『ICL(アイシーエル)』とも呼ばれます」と説明しており、適応となる屈折異常として「中等度~強度の近視・遠視・乱視」を挙げています。
「できる・できない」は乱視の度数だけでは決まらない
一方で、乱視があれば必ず受けられるというものでもありません。JSCRSは、ICLを受けるために満たす必要がある条件として、乱視の度数のほかに年齢、近視の度数、度数の安定期間、他の目の病気の有無、全身の状態などを挙げています。乱視の数値だけを見て自己判断できる性質のものではない、という点は最初に押さえておいてください。
乱視用ICLはどうやって乱視を矯正するのか
乱視には「軸」という方向がある
乱視を理解するうえで重要なのが「乱視軸」です。乱視は、目に入ってきた光が一点に集まらない状態ですが、そのぼやけ方には方向があります。JSCRSは「乱視には乱視軸と呼ばれる方向があります。乱視矯正ICLは患者さん毎の乱視軸に合わせて、作成されたものです」と説明しています。
つまり乱視用ICLは、度数を合わせるだけでなく、その人の乱視の向きに合わせた設計になっており、正しい向きで目の中に固定されてはじめて乱視矯正の効果が出るという仕組みです。ここが通常のICLと決定的に異なる点です。
通常のICLとの違い
| 項目 | 通常のICL | 乱視用ICL |
|---|---|---|
| 主に矯正するもの | 近視 | 近視と乱視 |
| レンズの向き | 矯正効果に直接は影響しない | 乱視軸に合わせた向きで固定する必要がある |
| 費用 | ― | 追加料金がかかる場合がある(費用の比較はこちら) |
| 術後に確認される点 | 度数、眼圧、レンズの位置など | 左記に加えてレンズの向き(回転の有無) |
眼鏡・乱視用コンタクトレンズとの違い
乱視用のソフトコンタクトレンズも、乱視軸に合わせた設計になっている点は同じです。ただしコンタクトレンズは目の表面に乗せるため、まばたきや目の動きで一時的にずれたり回転したりします。ICLは目の中に固定されるため、日常的なずれは起こりにくい構造です。
ただし「まったく動かない」わけではありません。この点は後述します。
乱視用ICLの適応はどのように判断されるのか
ICLの適応について語られる情報には、出どころの異なるものが混在しています。当サイトでは次のように区別しています。
- 専門学会が一般向けに案内している条件
- 医療機器として承認された使用目的や禁忌(添付文書に記載されているもの)
- メーカーが用意しているレンズの規格
- 各クリニックが実際に案内している条件
これらは同じものではありません。
ここでは、公開情報として確認できる学会の案内を紹介します。
学会が案内しているICLを受けられる条件
JSCRSは「ICLを受けるには、次の条件を満たしている必要があります」として、以下を挙げています(2026年8月8日確認)。
- 18歳以上(未成年者の場合、親権者の同意が必要)
- 老眼年齢(一般に40歳以上)に関しては、術後の近くの見え方も考慮して慎重に実施する
- 近視の強さを表す屈折値が6D以上の高度近視であること。ただし15Dを超える最強度の近視や、3D以上6D未満の中等度の近視に対しては慎重に実施する
- 乱視は4.5D以内であること
- 近視の度数が少なくとも1年(できれば1年半)以上安定していること
- 他の目の病気(白内障・緑内障・糖尿病網膜症・ブドウ膜炎など)がないこと
- 傷の治りに影響するような重症な糖尿病やアトピー性疾患がないこと
- 妊娠中・授乳中ではないこと
乱視について学会が示している目安は「4.5D以内」です。ただしこれは学会が一般向けに案内している条件であり、個々の医療機器として承認されている範囲や、各クリニックが実際に案内している条件とは別のものです。
この違いはICLで乱視は何度まで矯正できる?度数・強度乱視・適応限界を解説で詳しく整理しています。
承認された使用目的にも条件がある
医療機器の添付文書には、承認された使用目的が記載されています。現在主流のホールICL、販売名「KSアクアポート」の添付文書(2025年5月 第11版、2026年8月8日確認)では、乱視用モデル(VTICMO・VTICM5)の使用目的が「21歳〜45歳で、術前等価球面度数が−6.0D以上の強度近視、かつ円柱度数が+1.0D〜+4.0Dの患者」とされています。
学会の案内が「18歳以上」「乱視は4.5D以内」であるのに対し、承認された使用目的では年齢も乱視の範囲も異なります。どちらかが誤っているのではなく、性質の違う情報です。この違いはICLで乱視は何度まで矯正できる?度数・強度乱視・適応限界を解説で詳しく扱っています。
向いていないとされる条件
JSCRSは「このような方はICLに向いていません」として、18歳未満、近視がまだ進んでいる方、前房深度(角膜の裏側から水晶体までの距離)が2.8ミリより浅い方、進行性の円錐角膜の方、白内障・緑内障・ブドウ膜炎などの目の病気を持っている方、通常の目薬では治らないような重度のドライアイの方、傷の治りに影響するような重症な糖尿病やアトピー性疾患などをお持ちの方、妊娠中・授乳中の方、細かいことに対し過度に神経質になる方を挙げています。
ここで注意したいのは、乱視の中には別の評価が必要なものがあるという点です。
たとえば進行性の円錐角膜は、角膜の形状の変化によって乱視が生じますが、上記のとおり向いていない条件として挙げられています。
添付文書の【禁忌・禁止】にも、適用しない条件として「不正乱視の疑い、もしくは既往」と「円錐角膜(軽度かつ非進行性を除く)」が挙げられています。
乱視という言葉でひとくくりにせず、その乱視がどこから来ているのかを検査で確認する必要があります。乱視の種類による違いは度数の記事でも扱っています。
乱視用ICLで手術前に知っておきたいこと
レンズが回転すると矯正効果が弱まることがある
乱視用ICLに特有の論点が、レンズの回転です。JSCRSは「ICLは眼内で癒着などを起こさず、安定した状態を保つことが分かっています。これは利点ですが、一方癒着を起こさないために、レンズが眼内で回転する場合が稀にあります」と説明しています。
そのうえで「乱視矯正でない近視矯正だけのICLであれば問題ありませんが、乱視矯正ICLの場合は、乱視矯正能が低下し、見えづらくなることがあります」とされています。この場合は、レンズを本来あるべき位置に戻す整復手術が検討されます。
回転が起きたときにどう見えるのか、どのような対応がとられるのかは、ICLの乱視用レンズはずれる?回転する確率・見え方・対処法で詳しく解説しています。
費用が通常のICLと変わる場合がある
乱視用レンズを使う場合、通常のICLに追加料金がかかるクリニックと、料金体系に含まれているクリニックがあります。当サイトが主要クリニックの公式サイトを同日に調査したところ、追加料金は0円から10万円程度まで幅がありました。詳しくはICLの乱視あり費用はいくら?乱視なしとの料金差・相場を比較をご覧ください。
乱視用に特有のデメリットがある
ここまで挙げた回転や費用のほか、乱視が残った場合の対応、整復やレンズ交換の可能性、適応確認の項目が増えることなど、乱視用レンズを選ぶことで追加される論点があります。手術を決める前に確認しておきたい点は乱視用ICLのデメリットとリスク|通常ICLとの違いにまとめています。
術後の通院と検査
JSCRSは術後の通院について「一般的には、手術翌日・(3日目)・1週間後・1ヶ月後・3ヶ月後・6ヶ月後・1年後です。その後は1年に1度程度の定期検査を受けることをお勧めします」としており、施設によって多少の違いがあるとしています。また「視力だけではなく、眼圧やレンズの位置、眼内の炎症や点眼薬に対する反応、などのチェックが必要」と説明しています。
乱視用レンズの場合は、この「レンズの位置」の確認にレンズの向きも含まれることになります。
ICLの適応検査までに整理しておくとよいこと
最終的な適応は検査で判断されますが、カウンセリングの場で確認しやすいよう、事前に次の点を整理しておくと役立ちます。
- 現在の眼鏡やコンタクトレンズの処方内容(近視・乱視それぞれの度数と乱視軸)
- 度数がここ1年ほどで変化しているか
- 過去に指摘された目の病気や、治療中の全身の病気の有無
- 受診先で乱視用ICLを扱っているか、乱視の軸をどう測って手術計画に反映するか
- レンズが回転した場合の対応と、それが保証に含まれるか
なおJSCRSは、施設選びについて「眼科医がICLを行うためには日本眼科学会の屈折矯正講習会に参加した後、メーカーが行っているライセンス承認過程を経て、『ICL認定医』となる必要があります」と述べ、「メリットだけを謳い、低料金などで手術に誘導するような施設は、慎重に検討された方がよいでしょう」としています。
まとめ
- 乱視があってもICLで矯正できる場合があり、一般には乱視用(トーリック)レンズが使われる
- 乱視用ICLは乱視軸に合わせて作られており、正しい向きで固定されることで効果が出る
- 学会が案内している条件では乱視は4.5D以内とされているが、これは承認された範囲や各院の運用とは別のもの
- 乱視の中には、円錐角膜など別の評価が必要なものがある
- 乱視用に特有の論点として、レンズの回転と費用の違いがある
ご自身が受けられるかどうかは、この記事の情報だけでは判断できません。乱視の度数だけでなく、乱視の種類、前房深度、角膜の状態などを含めて眼科での適応検査で判断されます。検討されている場合は、適応検査を受けたうえで、担当医に確認してください。
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参照した情報源
- 医薬品医療機器総合機構(PMDA)公開 添付文書「KSアクアポート」承認番号22600BZX00085000、2025年5月 第11版(2026年8月8日確認)
- 日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)「ICLを考えている方へ」(2026年8月8日確認)
- 日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)「ICLの合併症」(2026年8月8日確認)
- 公益財団法人日本眼科学会「有水晶体眼内レンズ」(2026年8月8日確認)
- 各クリニック公式サイトの料金ページ(2026年8月8日確認)
